すごろくや

すごろくやスタッフインタビュー
デザイン・制作 春山 敬(はるやま たかし)

広告代理店出身のデザイナーから、ボードゲーム制作に転身した春山。
並行して「セラチェン春山」名義でイベントMCや、過去にはクラブVJ、プロレス団体スタッフなどで活動した一面も。
ゲームのロゴから、店頭ポップまで多岐にわたるすごろくや制作物に込める想いを聞きました。

語り手
春山 敬(はるやま たかし)
2016年すごろくや入社。グラフィックデザインやプロダクトデザイン、映像編集などを担当。
東京デザイナー学院卒。過去に成人向けゲームソフトメーカーや広告代理店に従事する傍ら、
趣味で都内トークライブハウスでの企画・出演や、 プロレス・格闘技団体の演出、
キャラクターやアーティストのライセンスグッズの企画・制作、成人向けCSチャンネルの番組MC
などを手掛ける。

座右の銘は「Too Weird To Live, Too Rare To Die(生かしておくのはヤバすぎるが、殺すには惜しすぎる)」

ロゴやパッケージのデザインから店頭やイベントでの広報物作成まで、
すごろくやの「制作」を一手に担う春山さんにお話を聞きます。
改めて、かんたんなプロフィールなどをお願いします。

1977年生まれの44歳、千葉生まれ、千葉育ち、千葉在住のふたご座のB型です。
すごろくやの制作物を全般的に担当しています。

ふたご座というのは初めて知りました(笑)
まずは好きなボードゲームから聞いていいですか?

好きなボードゲームって、実は答えるのが結構難しいんですが……。
そうですね、初めて触れて感動したボードゲームは 「スコットランドヤード(※)」ですかね。
(※1983年発売の、怪盗1人を複数の刑事役が追う推理と心理戦のゲーム)

超名作ですよね。いつ頃遊んだんですか?

中学生ぐらいのときですね。フジテレビの深夜番組で「ゲーム名人戦」っていう番組があって、
毎回見たこともないようなボードゲームを取り上げる番組だったんですよ。今でも珍しい企画と思うんですけど。
糸井重里さんとか岡崎京子さんとか、いわゆるサブカル文化人たちが毎週ボードゲームを遊んでいて、
その番組で見て面白そうだなと思って、探して買ったのがキッカケですね。

その番組は初めて知りました。めちゃくちゃ渋い番組があったんですね。

昔からのボードゲーム好きな人たちは、この番組の影響を受けた人も多いんじゃないですかね。
「たほいや(※)」も、その頃の深夜番組の企画から有名になったりして。
今思うと、サブカルチャーの入口みたいなものが、その当時の深夜番組にはたくさんあったんだと思います。
(※辞書で引いた知らない言葉の架空の意味を考えたり、そこから正しい意味を当てたりするゲーム)

そのあたりが原点という人は結構いるのかもしれませんね。

で、スコットランドヤードって「感想戦」ができるじゃないですか?あの時誰がどこにいた、みたいな。
感想戦ができるゲームって、やっぱりいいゲームだなと思うんですよね。

「ここ危なかったんだよ!」みたいな話も楽しいですもんね。
感想戦が楽しいと、勝っても負けても楽しい気がします。
さて、そろそろ本題の1つ目として、春山さんがすごろくやに入る前のお仕事について聞いてもいいですか?

広告代理店ですね。いわゆる「雑誌広告」の代理店だったんですが、広告以外にもいろいろ手広くやっていて、
退職前はキャラクターライセンスのビジネスを手掛けていました。
マンガやアニメのキャラクターグッズの企画制作などですね。

代理店での本業の傍ら、副業的な感じで「セラチェン春山」名義でのイベント企画や主催もされていたんですかね?

それは仕事というより、ほとんど遊びですね(笑)
今でもロフト・プラスワン(※)なんかで声がかかれば、トークイベントのMCをやったりしてます。
(※東京にある、面白ければ「なんでもあり」がモットーのトークライブハウス。)

たしかプロレス団体のお仕事もされてましたよね?

それも仕事というよりは、友達に声掛けてもらった、という感じで。
ちょうどこれから「666(※)」という名前のプロレス団体を旗揚げするという人から声を掛けてもらって。
ポスターとかグッズとか、試合前に流すいわゆる煽りVTRを作ってました。
(※プロレスとハードコア・パンクをコンセプトにしたインディープロレス団体。)

すごろくやでの制作業務もかなり幅広く担って頂いてますが、プライベートでの活動もかなり幅広いですね。

イベントごとの手伝いをしていると、芋づる式に色んな所から声がかかるんですよね。
あとは世代もあるのかな。 いわゆる団塊ジュニア世代で、
ジャンプの黄金期とかビックリマンだとか、あとさっきの深夜番組が始まった時期だったりとか。
思春期にそのあたりの雑多なものを通ってきて、興味の受け皿が広がったというのはあるかもしれません。

いい時代というか、ある意味爛熟期みたいな時期だったんですかね。

だからいまだにビックリマンが何かとコラボしているのを見かけると、つい罠にハマり買ってしまいますね。

そのへんの世代は狙い撃ちにされてる感じはありますね。

実は僕は春山さんの入社にあたって書類選考も担当したんですが、履歴書を見てびっくりしたんですよ。
なんだかすごい経歴の、いかつい雰囲気な人が来たぞと。本物のプロレスラーかと思いました(笑)
すごろくやで働くことを考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

すごろくやのことは元々「浅草キッド」の水道橋博士のブログで見て知ってたんですよ。
何度か足を運んだこともありますし。
なので面接に来たときも「あ、いつもの店員さんが面接するんだな」っていう感覚でした。

あの時はもう「いい人がいたら即二次面接に通そう」っていうスピード採用をやってて。
面接で話を伺って「経験豊富な凄い人が来たぞ」と思って、 面接終わるか終わらないかのうちに代表宛に
「二次面接やれますか?」ってチャット飛ばしてました。
だからそのまま「二次の実技試験このまま受けませんか?」ってお願いしましたよね(笑)

そうでした。たしか20分でチラシを1枚作れ、みたいな課題だったかな?

そういう実技試験って、デザイン専門の会社でもないところではあんまりなさそうですよね。

初めての経験でしたね。
何なら、僕の入社以降そういう実技試験ってすごろくやでもやってないような?

あ、それはデザイン職の採用が春山さん以降はまだないからですね。
もしまた採用することになれば、きっと実技試験はあると思います。

あ、あと色のグラデーションを並び替えるウェブテストみたいなものあったかなぁ。
初めてやるタイプのテストでしたけど結構いい点数がでたので、その時はホッとしましたね。

すごろくやって規模のわりに制作物の範囲と数がかなり多いので、品質はもちろん大事にしているのですが、
それ以上にスピードが求められることも多いんですね。
なので制作やデザインに関するスタンスというか、スピード感にミスマッチがないようにしたいなという。
とはいえ、やっぱり驚きますよね。

僕はこれまですごろくや以外に3社在籍した職歴があるんですけど、
どれも自分から応募したのではなく誘われて入ったんですね。
なので、自分のスキルがどこまで外で通用するだろうっていう不安も若干あったんですけど、
むしろこの実技試験を通じて、「こういうことなら自分のスキルを活かせそうだな」と感じられたのは良かったですね。

であればよかったです。実技試験で、仕事のペースやレンジ感をお互いに確認できるのはいいのかなと思います。
実技試験で面食らう部分もあったとは思うのですが、すごろくやで働こうという決め手は何でしたか?

一つには、自分がお客さんとして何度も足を運んでいたこともあって、
すごろくやのバリューがある程度自分の中でハッキリしていたことですね。
それで、どうせなら自分が好きだ、楽しいと思える娯楽やエンタメを仕事にしてみたいという思いもあり、
年齢的にも40手前だったので、そういう業界へ転職するならこのタイミングかなという。

ちょうど転機を迎えたところで、すごろくやが求人を出していた感じですね。
実際入社してみて、何が大変でしたか?

元々ボードゲームをたくさん遊んでいたわけではないこともあって、
新しいゲームの知識についていくのがやっぱりいちばん大変ですね。
プライベートではなくて仕事としてたくさんのゲームを遊ぶ、というのは嬉しい悲鳴ですが、やはり大変です。

例えば「チラシ作って」と言われても、ゲーム内容や雰囲気がわかってないと難しいですよね。

そうですね。とはいえスケジュールの都合上、ゲームを遊ぶ前にパッケージや説明書の作成に
着手せざるをえないこともあります。 その辺りの調整がなかなか悩ましいところです。

一般的に何かのデザインを手掛けるにあたって、必ずしも対象物やサービスを
デザイナーが体験できるとは限らないと思うんですが、すごろくやの場合はそれが可能なので、
いい面もあるし、そのぶん作業の合間で時間の捻出が必要になる、という難しさもあるかもしれません。

次の質問ですが、これまで手掛けた案件の中で特に印象に残っているものはありますか?

入社して初めて担当したのが「ナンジャモンジャ(※)」だったんですよね。
「ナンジャモンジャ」日本版のロゴやパッケージを作る仕事をいちばん最初にやらせてもらって。
(※ロシア発の、累計販売100万個を突破した爆笑人気カードゲーム)

で、その「ナンジャモンジャ」が今やすごろくや商品の“エースで4番”じゃないですか。
前職も含めて、過去に自分が関わった仕事の中で、いちばん世に出ているのが「ナンジャモンジャ」だと思うんですよね。
なので、印象に残っているというか、巡り合わせの運が良かったなと思いますね。

たしかに、ちょうどナンジャモンジャ日本版が世に出る頃と同じタイミングでの入社でしたね。

当時、2月の発売に間に合わせるために年末も作業をしていたのを覚えていますね。

すごろくやもSimple Rules(※)もお互い海外との本格的なライセンス交渉が初めてで、
思いの外時間がかかって、クリスマスの発売が間に合わなかったんですよ。
(※「ナンジャモンジャ」の版元である、ロシアの出版社)

今思うとすごろくやから「ナンジャモンジャ」をいい形で出せてよかったですよね。完全に手前味噌ですが。

そうですね、これほど多くの方に楽しんで頂けるゲームになって本当にありがたいです。
ところで、春山さんから見て、すごろくやの制作においてこだわっていると思う点はどこでしょうか?

ゲーム作りのハードルが下がっていく中で、「しっかり丁寧に作られているな」
と思ってもらえるようには気をつけていますね。「オフィシャル」な商品感がきちんとあるものというか。

商業流通の先でどこに出しても通用するモノを作ろう、というような?

そうですね。神は細部に宿る、じゃないですが、小さな注意書きの文字の打ち方1つでも
そういう「オフィシャル感」に違いが出ると思っているので、
お客さんから見て「あ、ここは手を抜いてるな」「安っぽいな」と思われないようしたい、という。

お客さんもゲーム内容だけではなくて、デザインも含めてしっかり見てらっしゃる方が多い印象ですね。

ありがたいことに、メディアでの露出も増えているので、そこで「ボードゲームってこういうものなんだ」
と色んな人の目に触れるわけで。おこがましい言い方かもしれないですが、その瞬間での「業界の代表」
として見られても大丈夫なものを作ろう、ということは気をつけています。

例えばすごろくやの製品がコンビニに並ぶ機会があったとして、そこで他の超大手メーカーの製品、
例えば誰もが知っているお菓子だとか飲料と並んだときに、遜色なく見えるようにしたいですね。

確かに、ある人が人生ではじめて触れるボードゲームが「ナンジャモンジャ」や「犯人は踊る(※)」である可能性って、
ありがたいことに今や結構高いかもしれませんからね。勝手な思いですけど、そこに責任みたいなものはありますよね。
(※手札の移動と探索で犯人札を特定する、人気推理カードゲーム)

自分が子どもの頃に「スコットランドヤード」で感じた、「いままで遊んだゲームとは違う、少し大人の世界だな」
というような気持ちを、 僕たちの製品でも同じように感じてもらえたら良いなぁとは思いますね。

もちろんスマホゲームやビデオゲームに比べるとまだまだ人口は少ないと思うんですが、
少しずつ注目度が上がっている実感はあるので、いつ誰が見ても恥ずかしくない製品を作らなければ、
という緊張感はありますね。

インタビューだからってわざわざ大袈裟な話してる気もしますが(笑)、
日本のボードゲーム業界を率先して盛り立てたいという気持ちはあります。

そうですね、今はまだ業界規模も小さくてお客さんも優しい方が多く、そこに助けられている部分もあるなと思いますが
ジャンルとして成長を目指していくために、より良いものを、という視点は持ち続ける必要がありますね。

ここでまたベタな質問ですが、すごろくやの業務でやりがいを感じる瞬間はどのへんでしょうか?

やはり直でお客さんの反応が見える、というところですかね。
前職の代理店業だと法人間の仕事で、クライアントの反応しか見れなかったので。
あとは娯楽のアイテムなので、「遊んで楽しかった」というポジティブな声をもらえることが多いのも
素直に嬉しいですね。

それは大きいですよね。すごろくやの社員はどんなポジションでも時折店頭には立つので、
自分が関わったゲームを直にお客さんに買ってもらったり、感想をいただいたりする機会がありますよね。

最近はまた「ナンジャモンジャ」をあちこちで取り上げて頂くことが多いので、やっぱり嬉しいですね。
プライズゲームで景品にしてもらったぬいぐるみの写真をSNSに上げてもらったり、
プロモーションの一環ではありますが、ファミリーレストランでキャラクターを展開できたのも感慨深かったです。

お客さんとの距離の近さや、自分が製品を世に送り出している実感というのは持ちやすい会社かなと思いますね。
ところで、これまでで一番大変だった制作案件は何でしょうか?

ゲームマーケット(※)の出展は毎回大変ですね。デザインはもちろん、展示物の制作など
自分達で手作りする作業も多いので、時間もかかりますし物理的な手間もあります。
(※株式会社アークライトが主催するボードゲームの即売イベント)

毎回出展内容は一から練り直してますからね。わりと「去年のを流用しよう」という場合も多いと思うのですが、

すごろくやでは来場者の変化や商品の内容にあわせて、毎年ゼロベースで新しいことに挑戦しよう、という。

まだボードゲームの展示には正解例がないと思うので「もうこれでいいだろう」ということも無いですし、
なにより新しいことをやってみたいという気持ちも強いですしね。

ゲームマーケットの規模の成長が著しいので、毎回同じことをやっていればいいという感じはないですよね。
イベントの成長についていくために、我々も常に試行錯誤を続けていく必要があるという。

同業他社さんの動きもとても参考になりますし、いい刺激ですね。
良いやり方はお互いにすぐに取り入れてる感じがします。
「あそこがそこまでやるんだったら、こっちも手が抜けないな」みたいな(笑)

お互いに意識している感じはありますよね。「あそこの展示良かったなぁ」みたいな。
そうしてゲームマーケットの盛り上がりに多少なりとも貢献できているなら嬉しいですよね。

はい、僕も毎回現地でしっかりチェックしていますよ!
ある関係者の方から聞いた話では、実際に「すごろくやみたいな感じで」と参考にされたこともあるとかないとか……。
とはいえ、例えば東京ゲームショウなんかと比べると、まだまだ展示会の規模も小さいので、
まだまだ伸びしろがあって、色々試せることはあると思っていますね。

ゆくゆくはドイツのエッセンシュピールみたいな規模にまで成長するといいですよね。
そろそろ締めの質問に移りますが、今後すごろくやでチャレンジしてみたいことはありますか?

やれることが多いので、あえてと言うと結構悩むのですが……。
そうですね、かつて自分が影響を受けたようなボードゲームのテレビ番組を作ってみたいかなぁ。
思春期の多感な若者に、ボードゲームの魅力がトラウマのように刷り込まれるような番組を作りたいですね。
「昔見たあの番組、なんだったんだろう?」みたいな。いまならネットなのかな。

スポットでそういう企画はあっても、1つの番組としてというのはまだなかなか無いかもしれませんね。
今はYoutubeの普及もあって、番組作りも以前よりハードルが下がっていると思うので、期待しています。
では、春山さんにとってのすごろくやとはどんな場所でしょうか?

ボードゲームは本当に多様な楽しみ方ができるのがいいところで、
すごろくやのお店はまさに「小さなテーマパーク」だと思ってますね。
仕事としては、まだまだ成長の余地がある業界なので、ボードゲームに軸足を置きさえすれば、
何でもチャレンジできる面白い場所だと思います。

そこは他のスタッフのインタビューでも出ましたが、自分たちでも把握しきれないぐらいに色々やってますよね(笑)
制作、小売はもちろん、卸売、イベント、講座とか……本当にボードゲーム絡みの何でも屋さんという感じで。

Eテレの「デザインあ(※)」という番組が好きなんですが、ATMの行列を効率よく捌くには、
ATM毎に列を作るんじゃなくて、 まずは一列に並んでもらって、そこから空いたATMに誘導するのが
良いデザインである、という話があって。
これってまさに「デザイン=仕組み」で問題解決を探る、ということなんですが、そのままゲームにも
通じる話だなっていう。
だから、ボードゲームが内包する「仕組み」を活かして、社会に貢献していくこともできるんではないかと思いますね。
(※デザイン的な視点から、身近なものを紐解く子供向け教育番組。)

ボードゲームの「仕組み」を通じて社会に貢献する、というのはまさにすごろくやの企業理念ですね。
逆に、すごろくやがもっと頑張らなければ、という部分は何かありますか?

外に向けて意識的に情報を発信していくところは、まだまだ必要だと思いますね。
ボードゲームが好きな方たちに対して「求心力」を持つのはもちろん、
更にその外側に広がっていくような「遠心力」というか。
せっかくミリオンヒットの「ナンジャモンジャ」を持っているので、それをキッカケにできる強みもあるなと。

「知る人ぞ知る」から、身近にあって当たり前、を目指していきたいですね。
そして、やはり「ナンジャモンジャ」をキッカケとして、色んなところから声を掛けて頂けるのは大きいです。
最後に、すごろくやで働いてみたい方へのメッセージをお願いします。

ただボードゲームが好きだから、というだけではもったいない職場で、それをキッカケに何でもトライしてみたい、
という方にとっては面白い場所だと思います。
僕のやっている制作という仕事も「とにかくゲームを作りたい」というよりは、
企画や販売といった前後のプロセスも含めた 「モノ作り」全般への興味を持てたほうが絶対に面白いと実感しています。
ちょっと、今日はかっこいい事ばかり言いすぎてますね。気圧のせいだと思います。

ありがとうございました!